ガラスびん3R促進協議会
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ガラスびんの魅力探訪

何げないびんに魅せられて

びん研究家
庄司 太一 氏

骨董屋の店先にあった小びんに心が引かれたのがはじまり。
何げないびんに魅せられて、約6万本をコレクション。

 1970年代後半、私が大学院生だった頃、吉祥寺の骨董屋をのぞいたときのことです。店先の売り物にならないガラクタの中に、気泡があってちょっとゆがんだ小さなびんを見つけました。そのびんを拾い上げたときに、自分が子どもの頃は、このような手作りのびんに囲まれていたことに気づき、当時のことがよみがえってきました。それが運命的なびんとの出会いなのですが、そのびんが何のびんなのか、どのようにして作られたのかも、まったく分かりませんでした。それで、びんのことが知りたくて、びんをこつこつと集め出したのです。集めたのは、製びん機により大量生産されるびんではなく、主に明治から昭和初期にかけての手作りのびんでした。

 その後、英文学を学ぶためにアメリカに行き、びんのことを忘れて勉強しようとするのですが、どういうわけか不思議なことに、びんのガイドブックが目に留まったり、びんのコレクターを紹介されたりして、びんへの思いは大きく広がっていきました。アメリカでは、昔のトイレ跡などを掘ってびんを探すボトルディギングも体験。アメリカの歴史に流れるびんの文化に触れることができました。日本に帰ってからも、全国のごみ捨て場などを掘ったりして、昔のびんをかなり集めました。現在、自宅の庭に作った「ボトルシアター」には、約6万本のびんを展示しています。

▲ボトルシアター

今までに日本が生み出したびんの総覧を見てみたいと、
「原色日本壜図鑑」の制作に着手、ライフワークとなる。

 実は私は博物学が好きで、昆虫図鑑や植物図鑑、貝や岩石の図鑑なども好きで、子どもの頃は枕元に図鑑を置いて寝たような少年でした。びんは自然物ではないのですが、びんのことを解説している本があったらいいなぁと思い、本格的にびんの収集が進行する中で、今まで日本が生み出したびんの総覧を見てみたいと思うようになり、自ら図鑑を作ることにしました。それが「原色日本壜図鑑」です。

 たくさん集められたびんは、1本ずつよりは複数本を相対的にして初めて何かが見えてくるように思い、この図鑑では同じ種類のびんを並べて、それぞれの背景を追ってみました。この図鑑は、日本のびんの歴史をひもとく、まさにびんの研究書なのですが、作り始めてその大変さをひしひしと感じています。「原色日本壜図鑑」の制作は、私のライフワークとなっていますが、今もう一つ、びんのおもしろいエピソードをまとめた「壜博士之異常な愛情」という本を作っています。絵本のような感じで読みやすくなっています。来年にはお見せできると思いますので、ご期待ください。

▲「原色日本壜図鑑」
▲「壜博士之異常な愛情」

人の日常の生活や歴史を映し出すガラスびん。
ガラスびんは人を癒やしたり慰めたりする世界をもっている。

 私は、いい意味でガラスびんに諸行無常を感じたりしています。私が手に入れたびんは空きびんですから、何のびんだか分からない。でも、どこかで作られ、誰かが使ったことは確かです。そういうびんを窓辺において見ていると、そのびんが道具として使われていた頃にタイムスリップしたような気分になります。そして、何となくおぼろげに見えてくるのは、当時の人の生活であったり時代だったりします。それはドラマチックな生活でも激動の時代でもなく、人の何げない日常なのです。

 最近思うのですが、光に当たってキラキラ輝くガラスびんは、人を癒やしたり慰めたりする世界をもっているのではないかと。ボトルシアターには、純粋であるがために社会に乗り遅れてしまったような若者が訪ねてくることがあるのですが、彼らはびんを見てホッとしているのです。私も初めてびんと出会ったときにはホッとしました。

 ガラスびんメーカーの方々が、ひたすら一生懸命作ってきた無心のびんが、何げなく生活の道具として使われた後、空きびんとなって、ある時は人の心を癒やしたり慰めたりする存在になっているということを、私は声を大にして言いたいですね。

びん研究家
庄司 太一 氏
▲ボトルシアター
▲「原色日本壜図鑑」
▲「壜博士之異常な愛情」